Apache HudiとIcebergを選び分ける:次世代テーブルフォーマットの実践比較
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はじめに
近年、データ分析のスケールとニーズは急速に拡大・多様化しており、それに伴って、データ基盤にも柔軟性・スケーラビリティ・運用性のすべてが求められるようになっています。従来の単一ファイルベースのデータレイク構成や、Hive形式によるテーブル管理は、スキーマ変更やバージョン管理における制約が多く、これらの要件に応えるには限界があるのが実情です。
一方、クラウドネイティブに設計されたマネージド型のデータウェアハウスは、高度なクエリエンジンとマネージドな利便性を提供する一方で、コスト構造やロック制御、フォーマット柔軟性の観点からすべてのユースケースに万能というわけではありません。特に、オープンフォーマットでのデータ共有やマルチエンジン活用が前提となるユースケースでは、次世代のテーブルフォーマットである Apache Hudi や Apache Iceberg が有力な選択肢となり得ます。
本記事では、Apache HudiとApache Icebergの構造・互換性・エコシステム対応状況などを比較し、ビジネス要件に適合した技術選定を行うための判断材料を提供することを目的としています。
基本概念と設計思想の違い
HudiとIcebergはいずれも、データレイクにACIDトランザクションやスキーマ進化、タイムトラベルといったデータウェアハウス並みの機能を提供することを目指して開発されたテーブルフォーマットです。しかし、その設計思想や得意とする処理内容には明確な違いがあります。以下の表では、両者の根本的なアーキテクチャと設計方針の違いを比較しています。
比較軸 | Apache Hudi | Apache Iceberg |
---|---|---|
主な設計目的 | 高頻度更新/Upsert処理の最適化 | 大規模データの安定的分析処理 |
処理モード | Copy-on-write / Merge-on-read | Snapshotベース |
メタデータ管理 | タイムラインベース(Hudi Timeline) | マニフェスト・スナップショット階層構造 |
スキーマ進化 | 可能(制限あり) | 柔軟(列削除・再順序も可) |
Hudiは、更新系処理に特化した作りになっており、特にデータのUpsertやDeleteなどが頻繁に発生するユースケースにおいて、高いパフォーマンスと効率性を発揮します。一方、Icebergは大規模な読み取りやスナップショット管理に最適化されており、分析処理を重視した構造となっています。
データ更新とクエリ最適化の観点での違い
次に、HudiとIcebergの機能を「データの更新処理」と「クエリの実行効率」の観点から比較します。データレイク環境においては、単に読み取るだけでなく、データの差分反映や履歴管理といった処理の設計も極めて重要です。以下に、各フォーマットの機能的な特性と適用可能な処理パターンの違いを整理します。
- Apache Hudiの強み
- CDC(Change Data Capture)用途に強い
- FlinkやKafkaなどのリアルタイムストリーム連携
- インクリメンタルな読み取りや効率的なUpsert処理
- Apache Icebergの強み
- クエリエンジン(Trino, Athena等)との親和性が高い
- 高速なフィルタリングとパーティションプルーニング
- バージョン管理やタイムトラベルが柔軟で安定
用途によって求められる特性が異なるため、単純な優劣ではなく、システム要件や運用方針に応じて選定する必要があります。
実行エンジンとクラウド環境での連携性
各フォーマットがサポートしている実行エンジンやクラウドサービスとの連携は、導入・運用のしやすさに直結します。ここでは代表的なツールを「機能分類」とともに比較します。
ツール/クラウド | 機能分類 | Apache Hudi | Apache Iceberg |
---|---|---|---|
Apache Spark | 汎用バッチ/分析処理エンジン | 〇(安定連携) | 〇(安定連携) |
Apache Flink | ストリーム/バッチ統合エンジン | 〇(高い親和性) | 〇(標準対応) |
Trino / Presto | 分散SQLクエリエンジン | △(プラグイン必要) | 〇(公式対応) |
Apache Hive | メタストア/バッチSQL実行基盤 | 〇(連携可) | 〇(連携可) |
AWS Glue | メタデータ管理・ETLエンジン | △(Spark経由) | 〇(カタログ統合) |
AWS Athena | SQLベースSaaS分析エンジン | ×(非対応) | 〇(ネイティブ対応) |
GCP BigLake | マルチエンジン対応のデータレイク統合基盤 | ×(非対応) | 〇(公式サポート) |
Databricks | 統合分析プラットフォーム | △(OSS利用可) | △(OSS利用可) |
ユースケース別 適材適所の使い分け
ユースケースに応じたフォーマットの選定は、システム全体の効率性や保守性に大きく影響します。以下の表では、代表的なデータ活用シナリオに対して、HudiとIcebergのどちらがより適しているかを整理しています。それぞれのフォーマットの強みを活かすことで、運用上のトラブルやパフォーマンスの問題を回避しやすくなります。
導入に際しては、以下の点にも注意が必要です。Hudiを導入する場合は、更新処理の頻度やデータ整合性要件、インクリメンタル処理の設計を慎重に検討する必要があります。一方Icebergは、マルチエンジンでのアクセス性やバージョン管理のニーズに応える柔軟性がある一方で、初期設計の粒度(パーティション設計やスナップショット保持方針など)が運用コストに影響を与えるため、事前の設計が重要です。
ユースケース | 適しているフォーマット |
---|---|
データレイクDWHとの統合 | Iceberg |
頻繁なUpsert・リアルタイム連携 | Hudi |
ストリームデータの蓄積と後続分析 | Hudi |
分析中心・クエリエンジン多様な環境 | Iceberg |
メタストアを共通で使いたい場合 | Iceberg(Glue/Athenaとの親和性) |
まとめと今後の展望
Apache HudiとApache Icebergはいずれも優れたテーブルフォーマットですが、その設計思想と得意分野には明確な違いがあります。
Hudiはデータ更新が多く、リアルタイム処理が求められるユースケースに強く、Icebergは多様なクエリエンジンとの連携や柔軟な分析環境を構築したい場面に適しています。
今後もエコシステムの進化とともに両者の差分は縮まっていくことが予想されますが、現時点では「用途と目的に応じた適切な選定」が最も重要です。システム全体のアーキテクチャや、将来的な拡張性も含めて、長期的な視点での導入判断が求められます。