データ分析基盤におけるメタデータの活用① - メタデータの役割
データマネジメントとメタデータ
近年のIT分野、とりわけデータマネジメントの領域において、メタデータの重要性はますます高まっています。メタデータを取り扱うソフトウェアには、大手ベンダーが提供するものからオープンソースをベースとしたエコシステムまで、さまざまな選択肢があります。しかし、メタデータを有効に活用するには、ソフトウェアを導入するだけでは不十分です。利用する組織が明確な目的や目標を持ち、それに基づくデータマネジメントルールを確立していることが前提となります。
今回の投稿では、データマネジメントとメタデータに焦点を当て、3回にわたってその概念の解説および実際のメタデータソフトウェアを使った検証を行います。初回の投稿では、データマネジメントの重要性や役割、その上でメタデータが果たす役割、メタデータの種類および持つべき機能について解説します。
データマネジメントの重要性
企業ITにおけるデータマネジメントは、組織の成功を支える極めて重要な要素です。ここでは、その重要性を評価するための視点を説明します。
- 意思決定の質の向上 データマネジメントは、正確で信頼性の高いデータを提供することで、意思決定の質を向上させます。企業内で統一ルールに基づいて管理された一貫性のある正確なデータを用いることで、意思決定はより高い質と精度を持つものとなります。これは、企業の競争力の強化にも大きく寄与します。
- 運用効率の向上 データマネジメントは、業務プロセスの最適化に寄与します。サイロ化されたシステム間でのデータの重複や意図しないコード管理の差異、集計ルールの違いによる効率低下を防止し、エラーを早期に発見して改善プロセスを実施することで、業務効率が向上します。これにより、データ活用の成熟度も高まります。
- リスク管理とコンプライアンス 適切なデータマネジメントは、リスク管理において不可欠です。データ保護規制へのコンプライアンスの確保やセキュリティ対策はリスク管理の重要な要素であり、データを正しく収集し、処理、保存、管理、監視することが必要です。統一ルールを確立し、メタデータなどを活用することで、適切なリスクコントロールが可能となります。
このように、データマネジメントは、企業ITにおいて不可欠な要素であり、意思決定の質向上、競争力の維持、運用効率の向上、リスク管理、データセキュリティ、そしてデータのライフサイクル管理において重要な役割を果たします。これらの要素を効果的に管理することで、企業はデータ駆動型の意思決定を行い、持続的な成長を達成することができます。
データマネジメントの知識領域
データマネジメントの知識領域とは、データマネジメントに関連する特定のテーマや活動分野を指します。これらの知識領域は、データ管理の実践を体系的に理解し、効果的に実行するための枠組みを提供します。DMBOK(Data Management Body of Knowledge)では、これらの知識領域を詳細に分類し、それぞれの役割や重要性を解説しています。
- データガバナンス (Data Governance) 組織のデータ戦略の定義、実行するための組織の発足、データ管理ポリシーの策定、標準ルール策定・監督など、データ管理のための組織・ルールの維持・運営を行う。
- データアーキテクチャ (Data Architecture) データ資産を管理する上での俯瞰的な方針を策定する。
- データモデリングとデザイン データモデルの概念・論理・物理モデルに関し、適用するケースと対応するモデルを策定し、各データモデル層に対する標準ルールを策定する。
- データストレージとオペレーション (Data Storage & Operations) データ発生から廃棄に至るまでのデータライフサイクルを通じた、データストレージへのデータ格納や運用の設計、実装、サポートを行う。
- データセキュリティ (Data Security) データの機密性を保護し、侵害や漏洩を防ぐとともに、適切なデータアクセスを設計・実装、確保する 。
- データ統合と相互運用性 (Data Integration & Interoperability) 社内外のデータ、アプリケーションを適切に統合し、有益な相互利用可能なデータ連携を設計、実装、運用する。
- ドキュメントとコンテンツ管理 (Document & Content Management) 非構造化データ(主に文書データ)の管理を行い、適切なライフサイクルの維持と利便性の確保を行う。
- 参照データとマスターデータ管理 (Reference & Master Data Management) 組織横断的に利用されるマスタデータや参照データの維持・管理を行う 。
- データウェアハウジングとビジネスインテリジェンス (Data Warehousing & Business Intelligence) ビジネスインテリジェンスや機械学習などのデータ分析を行うためのデータ提供や成形、サンドボックスやセマンティックレイヤ、ツールの設計・実装を行う。
- メタデータ管理 (Metadata Management) データ分析基盤全体のガバナンスデータ、設計データを一元管理する 詳細は後述。
- データ品質管理 (Data Quality Management) データの品質基準を定義、監視、改善するライフサイクルを設計・実装する。
各知識領域の詳細については、文末の参考文献に詳細に記述されていますので、そちらをご参照ください。本投稿では、上述の10.メタデータに関して主に記載しています。メタデータの役割は、上記の知識業域を統合的かつ横断的に管理する役割として位置づけられています。
データマネジメントにおけるメタデータの種類
データマネジメントにおけるメタデータは、次のような種類により構成されています。
ビジネスメタデータ (Business Metadata)
ビジネスメタデータは、主にビジネスユーザーが知るべきデータの意味やビジネスコンテキストを提供します。主に以下の要素を含みます。
- データモデル(概念・論理レベル)とエンティティ、属性に関する定義、説明、ルール、計算方法、導出方法
- データリネージュ(ビジネス)
- データが更新される頻度やタイミング
- データのアクセス権、情報ランク
- 現時点でのデータの課題、取り扱い留意点
技術メタデータ (Technical Metadata)
技術メタデータは、データの技術的な詳細を提供します。以下の要素を含みます
- データモデル(物理レベル)とテーブル、カラムの物理属性に関する定義
- バックアップ・リカバリー、MTTRに関する情報
- データのアクセス権、オーナー、スチュワードの情報
- データCRUD
- データパイプラインの設計情報や実行タイミングの定義
- データリネージュ(テクニカル)
運用メタデータ (Operational Metadata)
運用メタデータは、データの運用管理に関する情報を提供します。以下の要素を含みます
- パイプラインの実行ログ
- データインジェストの結果及びその履歴
- パイプラインの実行経過情報
- 運用タスクの実行状況と履歴
- データの監視履歴
- データの利用状況の監視(データ利用促進や廃棄の判断)
メタデータソフトウェアの機能
メタデータのソフトウェアにはさまざまな機能が含まれていますが、その中でも多くのソフトウェアで実装されている主要な機能には、主に次のようなものがあります。
データガバナンス
データガバナンスは、組織全体で取り組むべき組織作りやルール作りが主な内容であり、ソフトウェアで支援可能な領域とそうでない領域があります。メタデータソフトウェアは、この領域で主にビジネス用語集を管理する機能を提供していることが多いようです。ビジネス用語集は、企業内で統一されたビジネス用語を定義することで、認識の齟齬がないコミュニケーションを支援する上で非常に重要な役割を果たすとともに、データ品質、コンプライアンスを強力に支援します。この機能は、後述のデータカタログの機能と合わせて利用することにより、ビジネスユーザーに多くのメリットを与えることが可能になります。
データカタログ
データカタログは、ビジネスユーザーが企業内外にあるデータを検索、発見するための機能です。DMBOKのメタデータの中でも、主に「ビジネスメタデータ」をサポートする機能であり、前述のビジネス用語集と組み合わせて使用します。
例えば、ビジネスユーザーが売上の分析を行いたい場合、データカタログで「売上」と検索すると、「個人実店舗売上」「EC売上」「法人取引」などの関連するデータセットが検索されます。これは「売上」というキーワードだけでなく、背後に定義されたデータ用語集によって管理された関連性や文脈に基づいて結果が表示されます。また、データの意味や算出根拠、利用上の注意点も表示されるため、正確なデータの探索や分析に大いに役立ちます。
データリネージュ
データリネージュは、データの起源、変換、および流れを追跡するプロセスです。データがどのように生成され、どのように変換され、最終的にどこに到達するかを視覚的に示します。これにより、データのトレーサビリティ、信頼性、透明性が向上し、データの管理とガバナンスが強化されます。
ビジネスユーザーは、主に自身が利用するデータの起源を確認するために、ビジネスメタデータの一部としてデータリネージュ(ビジネス)を使用します。
IT担当者は、データリネージュ(テクニカル)を利用してデータのライフサイクルを確認します。特に、リネージュの後方探索により、データの仕様変更の影響範囲を調査する際に非常に便利です。
データ品質
データ品質は、データ分析基盤に格納されているデータを評価するための機能です。一般的な品質の評価尺度は、「データ分析基盤におけるデータ品質の管理(1)- データ品質の評価基準」をご参照ください。特に、クラウド型のデータウェアハウス製品では、OLTPのデータベース製品にあるような制約(主キー制約、参照整合性制約など)を定義することは可能ですが、これらはクエリプランナーの参考情報として使われるものであり、データの整合性確保には直接機能しないことがほとんどです。例えば、
- 主キー制約: 商品マスタの商品コードはユニークでなければなりません。
- 参照整合性制約: 商品マスタにあるカテゴリコードは、カテゴリマスタのカテゴリコードと一致しなければなりません。
正しく設計されたパイプライン処理では、上記のような制約に対する不整合はパイプラインの適切な実装で回避することが可能です。しかし、以下のような条件下では、データの品質が低下することが考えられます。
- ソースシステムから想定外のエラーデータが到着し、データ分析基盤に混入した
- 手作業の運用処理で、オペレーションのミスによりデータの重複が発生した
- データ分析基盤で発行したハッシュ値やUUIDが偶然衝突した
このようなまれなケースを検出するためにも、データ品質のチェック機能は非常に重要です。
おわりに
本投稿では、メタデータの活用に先立つデータマネジメントの重要性と取り組み内容、およびメタデータとの関係について解説しました。次回は、実際のメタデータ管理ツールを使用して、主な機能(データガバナンス、データカタログ、データリネージュ、データ品質)について、その活用方法を検証します。
参考文献・サイト
- データマネジメント知識体系ガイド(第二版) 2022 DAMA International(日経BP社)